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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(オ)55号 判決 1949年2月08日

主文

原判決を破毀する。

本件を仙台高等裁判所に差戻す。

理由

上告理由第五点について

原判決は本件九六番及び九七番の宅地上にはいずれも、当時右土地の所有者であつた北目迪が建物を所有し、これを他に賃貸していたのであるが、右建物は、昭和二〇年七月一〇日の空襲により罹災滅失した。被上告人大橋きよみは昭和二〇年一〇月一五日から右九六番宅地を、被上告人菊地喜助は同二一年五月二五日から九七番宅地を所有者から賃借したのであるが、右罹災後被上告人等が右宅地を賃借するまでの二ケ月以上の期間右建物の居住者であつた借家人等は、その借家所在地の使用を始めた事実はないのであるから被上告人等は、いずれも旧戦時罹災土地物件令第(一文字脱落)条第四項の規定する「土地所有者から土地を使用せしめられている他人」に当るものである、しかして被上告人大橋は、同二一年二月中に右九六番地上に一応の建築を完成し、これに居住してその使用を開始し、被上告人菊地は同年六月上旬中に九七番地上に建築用の壁土を運搬して、その使用を始めつゞいて同二二年三月右地上に建物の建築に着手したのであるから、被上告人等は、いずれも、罹災都市借地借家臨時処理法第二九条第三項、第三二条第一項、第二条第一項により、土地の所有者に対し、建物所有の目的で賃借の申出をすることができるのであるが、被上告人等は、同二三年四月一九日午前九時の本件口頭弁論期日に、北目から右宅地の所有権を譲受けて現在右土地の所有者である上告人に対し、夫々右土地の賃借の申出をしたといふ事実を認定して、これによつて同法第二条第二項第三項の適法なる賃貸拒絶のない限り、被上告人等は同法所定の賃借権者となつたものと判断し、被上告人等は、適法に、上告人に対して賃借権にもとずいて本件宅地を占有使用する権限を有するものと判示したのである。しかしながら同法第二九条第三項、第三二条第一項、第二条第一項によつて、土地所有者に対し、建物所有の目的で土地の賃借を申出る権利を有するものが、右申出をした場合において、土地所有者が右申出を受けた日から三週間以内に拒絶の意思表示をしないときはその期間満了のときに、その申出を承諾したものとみなされることは、同法第二条第二項の明定するところである。であるから右申出があつても、敷地使用者と土地所有者との間において、右申出によつて、直ちに賃貸借が成立するものでなく、土地所有者が右申出を承諾するか、または同条同項によつて、これを承諾したものとみなされるときに、初めて両者の間に賃貸借が成立するものであることは同条の法意に照し疑を容れないところである。もつとも同条第三項は土地所有者は正当な事由のある場合でなければ、右申出を拒絶することができないことを規定しているけれども、たとい、正当な事由のない場合であつても、土地所有者は、右申出を受けると同時に、直ちに、これを承諾したものとみなされるのではなくやはり、右申出を受けた後、三週間の期間満了のときにこれを承諾したものとみなされるのである。しかるに、原審は、上告人が右申出を承諾した事実を確定することなく、しかも右申出後、三週間の期間の経過を待たないで右申出の即日、口頭弁論を終結して、その判決において、「右申出によつて、同法第二条第二項第三項の適法なる賃貸拒絶のない限り、被上告人等は同法所定の賃借権者となつたものと認められる」と説示し、被上告人等は本件宅地の賃借権者として、これを占有使用する権限あるものとして、上告人敗訴の判決を言渡したのは畢竟、同法第二条第二、三項の解釈を誤つたものというの外なく、この点に関する論旨は理由あり、原判決は破毀を免れないものである。

よつて他の上告理由に対する判断を省略し、民事訴訟法第四〇七条に従つて、主文のごとく判決する。

右は全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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